Bohemian Rhapsody

クイーンの結成からライブ・エイドまでを描いた映画「ボヘミアン・ラプソディBohemian Rhapsody)」。とにかく楽しみにしていたので公開初日に観てきました。

普段あまり映画を観ないからかもしれませんが、実は映画のプロモーションのノリってどうも好きになれないというか馴染めません。映画そのものは楽しみにしていた一方で、この映画の宣伝も、胸アツとか号泣とかってなんだかなぁと内心ちょっと思っておりました。ポスターのコピーも「魂に響くラスト21分」とあって、「21分て中途半端な数字やし長いし、なんやそれ」とか思っておりました。しかし胸アツはともかく号泣はその通りだったし、「21分」の意味も観れば納得です(とはいえノリが苦手なことに変わりはないんですけどね…)。

 

以下、一応ネタばれにもなるのでご注意ください。

 

 

21分ていうのは、ライブエイドのステージをほぼ再現していて、それがラストに流れるからなんですね。ライブエイドのクイーンといえば、「全イベント通じてのベストアクト」、「奇跡の復活」などなど伝説にもなっているファンにはおなじみのステージですが、逆に言えばそれだけ凄いステージがオリジナル版でちゃんと映像化されていて、DVD(や、なんならYouTubeででも)で手軽に観られる状態なのに、役者さんたちを使って再現する必要があるのかな?と正直ちょっと思っていました。確かに予告編で観たクイーン4名役の役者さんたちはびっくりするほど似ていて真に迫っていたけど、とはいえライブエイドなんて再現したらかえって白けちゃうんじゃないのかな?と。

でも、観た方ならたぶん共感していただけると思うんですが、とんでもない誤解でした…。いやもう、製作陣の皆様に誤解を全力でお詫びしたいレベル。

まず再現度がハンパない。役者さんもすごいんですが、ピアノの上のドリンクの配置とか(ほかに読んだ記事によれば水道管のサビとかまで!)細部に至るまで再現されています。映画ならではの臨場感もあり、本当に自分がその場でステージを観ているような気分になります。そしてステージの合間、随所に挟まれるコールセンターの鳴りやまない電話、ライブエイドを中継している地元のパブ(多分)で肩を組みながらチャンピオンを歌うお客さん、そして何よりステージ袖のメアリーさんとジムさんの表情など様々なシーンが…ああもう、思い出しただけで泣きそうになる。。ハンパない再現度と、映画ならではの感動的な演出のいいとこどりとでもいうのか。ライブエイドをリアルタイムで観ていない私にとってはもはや映画の方がリアルかもしれないし、これを観ることであらためてあのステージの素晴らしさを痛感します(映画観たあと家に帰ってライブエイド見直した人きっとたくさんいると思う)。あと今まで意識したことなかったんだけど、フレディがバンドとして再起を賭け、メンバーに病気を告白し…という流れで当日歌われた歌詞を聴くと、今までとは全然違った意味を持って響いてきました。実際に彼がエイズと診断されたのは1987年らしいのでここは完全に創作なようですが、まあ映画ですし、変な言い方だけど演出としては最高のタイミングだったと思います。

特に目新しいエピソードがある訳でもないし、フレディが亡くなるシーンは描かれていないと聞いていたので、泣くとかはないだろうなぁと思っていたんですが20分間ボロボロ泣いてしまいました。ついでに言うならオープニングのRed Specialのファンファーレでいきなり涙腺緩みましたが…。

 

もちろんライブエイドに限らず、全編にわたる再現度の高さにはひたすら驚嘆なんですが、こういうのって似せれば似せるほど「茶番感」がかえって出てしまうこともあると思うんです。「所詮再現ドラマよね」的な。でもこの映画に関して、少なくとも私は全然感じませんでした。ファンの思い込みかもしれないけど。

 

もちろん、映画なので事実と違う点もいくつかあります。先に書いたエイズ診断のタイミングに加え、私はクイーンの歴史にそこまで詳しくないけど、例えばメアリーさんと出会ったのはもっと後のはずだし、ボヘミアン・ラプソディが発売になる前、初のアメリカツアーでFat Bottomed Girlを歌ってるのは時系列的にあり得ない。それにさも成功したかのように描かれているけど確かフレディは当時喉を痛めてそんなに好調でもなかったはず。何よりGameの頃までアメリカではそこまでは評価されてなかったんじゃないかなぁ。むしろ日本のいちファンとしては、羽田の熱狂お出迎えは少しでも触れて欲しかったかな、とも。とは言えフレディが振袖やお札みたいなのを壁に飾ってたり和柄のガウンを着ていたり、ブライアンが安定の漢字入り謎シャツを着ていたりと、随所で日本を意識して取り入れてくれていたのは嬉しかったです。

まあでも映画ですから事実を正確に反映する必要はないんだし、「あれ?」くらいに思ってもそれ以上気になることはなかったです。むしろ「今だから盛り込めるネタ」というかジョークが効いてたのも面白かったなと。例えばブライアンに対して「(クイーンやってなかったら)天文学博士になって誰も読まないような論文書いてただろう」と言ってみたり(クイーンやってたけど博士になっちゃったよ! そして還暦過ぎてのPhD取得には尊敬しかないけど、若い頃の研究をほぼそのまま続けられたってことはそれだけテーマがマイナーもといニッチだったはずで、ブライアン・メイが書いたということで注目されたものの、「誰も読まない」てのは当たらずとも遠からずなんじゃないかと…)、ボヘミアン・ラプソディを「車の中で若者がヘッドバンギングしながら聴くような曲じゃない」と言ってみたり(もちろん映画Wayne’s Worldを意識しての発言でしょう)、思わず笑ってしまいました。

 

そしてそして、「役者さん似てるすごい」と何度かさらっと書いてきましたが、これももう奇跡レベルです。特にジョン・ディーコンとブライアン・メイは、デジタルリマスターされた本人の映像が紛れていても気づかないかもしれない。クイーンといえば、ブライアン以外は時期によって髪形や風貌が結構変遷していきますけど、どの時期も似てるってすごいなと。ジョンの目を細めた時の表情とか、ベースを弾いてる時の独特の身体の動きとかは「まんまジョン・ディーコン」だし、ブライアンの声やしゃべり方も「まんまブライアン・メイ」。演じたグゥィリム・リーさんのことをブライアンが「僕以上にブライアン・メイ」みたいに言ってたこともあるけど、ご本人も観てて不思議な気持ちになったんじゃないかなぁ。強いて言えばロジャーが一番似てなかったけど(まああのレベルのイケメンを見つけてくるのは至難の業なんでしょうね…)それでもライブエイドの頃にはもうロジャー・テイラーにしか見えなかったです。ドラムスティックを振り上げるときの仕草とかもそっくりでしたしね。そしてフレディ。色々と特徴的な方なので物まね対象としてもポピュラーですけど、当然ながらそんなレベルは軽く超越してました。ライブエイドなんて、仕草の一つひとつまで完璧。相当研究されたんだろうなぁ。演じるラミ・マレックさんは決して造形として似ているわけじゃないのに、時々フレディ・マーキュリーが降りてきたんじゃないかって瞬間がありました。予告ではそれぞれ似てるところを選りすぐってフラッシュで映してたのかな?とも思ってたんですが、見事に全編完璧でした。メイクとか撮影技術とかももちろんあるんだろうけど、体格や声など持って生まれた物も含めて、よくぞまあピッタリな人たちを見つけてくれて、更に彼らが完璧にプロフェッショナルな仕事をしてくれたなぁと思います。SNS見てると、ブライアンが彼らを可愛くて仕方ない様子が見て取れますけど、いやー、そりゃ可愛いでしょうよ!私も全員まとめて抱きしめたくなったよ!って感じです。抱きしめませんけど。この映画、長年構想はあるものの何度も頓挫してきたと聞いていますが、まさに今このタイミングで、このキャストで実現するまで神様がストップかけてたんじゃないかとすら思ってしまいます。

 

と、以上1回観ただけの感想なのでおそらく拾いきれてないネタも多々あり、例えばカメオ出演してるらしいアダム・ランバートさんとか全然判らなかったしそんな余裕もなかったんですけど、まだ何度か観に行こうと思っているので頑張って見つけたいと思います(その前にネットで探してネタバレしちゃいそうだけど)。今の気分としては1人でしみじみ静かに観たいので声出し上映はパスかなぁて感じですが、ライブエイドをより臨場感たっぷりに観れそうなScreenXは少し遠いけど行こうかと。何回観るつもりなんでしょうね。3日経ってだいぶ落ち着いてもまだこのテンションですからね…。